2012年 10月 19日
・『サイゴンの昼下がり』 -横木 安良夫 著名な写真家でもある横木安良夫氏によるベトナムのフォトエッセイ集。 刊行が1999年という古い本だ。 今や書店に並ぶベトナム本は星の数ほどあれど、この本が面白いのは所謂ブームになる前の ベトナムをいかにも「写真家」らしい目線で切り取っていることだと思う。 写真家のヒトが書いたものって作家やジャーナリストの書き物とは違う独特の空気感がある。 うまく表現できないが、いい意味で浮付いているというか、肩肘張らないニュートラルな感性の ものがとても多い気がする。 文章よりも一枚の写真が雄弁に語ってくれるという確信めいたものを持っているからかも知れない。 横木氏自身がサイトで語っているが、この本に書かれた旧きベトナムの幾つかは今はもう見られ なくなったそうだ。ぼくはベトナムには行ったことがないけれど、その感じはなんとなく想像ができる。 ベトナムに限らず、今の東南アジアは5年前が思い出せないほどの爆発的変化の波の中にある。 行ったこともないのに、その国のノスタルジーに浸るというのもおかしな話だけど、ぼくには この本を通して伝わってくる「過ぎし日のベトナム」の空気がなんだかとても心地良かった。 有名な一枚となった表紙の写真は今見てもちっとも色あせない。 本棚に置いておくだけで香り立つような、そんな一冊。
by jellyfishcafe
| 2012-10-19 01:54
| クラゲノアンテナ
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